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2009(Sun) 16:46
呪われた運命1
眩いほどの光を注ぐあの太陽のように。
安らぎと静けさを与える月のように。
命を運ぶ風のように。
空を流れる雲のように―――。
当たり前に与えられると思っていたもの全てが消えたあの夜に、一人の姫が呪いを受けた。
呪いはこの世界を統べる女王から与えられ、彼女は罪と同時に使命を言い渡された。
お前が生きる道はその道しかあらず、お前が幸せを得るにはその使命を果たすしかない。
もし、元の自分に戻らずとも良いとその足を止めるのなら、不死の呪いがお前に降り注ぐだろう。
冷たい夜の時間が世界を覆う前に―――その手で罪を贖うのだ。
<暁の時間>を取り戻せ。
賑やかな酒場の一番奥の席に、奇妙な二人連れがいた。
一人は黒髪に左眼が黄金色・右目がターコイズブルーの瞳をしたオッドアイの青年、もう一人は亜麻色の髪に鮮やかな琥珀色の瞳をした青年だった。
互いにレモネードを飲みながら、古びた小さな紙切れを指差しては何やら言葉を交わしている。
「ここから東に進んだところにある古びた教会の地下から、城に伸びる地下道があります。もうしばらく使われていないみたいなんで相当古いですけど、元は王族の脱出口だったというし、今も繋がっていると思います」
黒髪の方の青年はトントンと指で教会のある場所を指し示し、目の前に座る亜麻色の青年を目で追った。
「どうします?ロラン様」
「どうするもこうするも―――、正攻法で王宮の中に入れるほど甘くないよね。そこから忍び入るしかないよ」
ロランと呼ばれた亜麻色の髪の青年は、肩をすくめてそういうとレモネードを一口飲んだ。
「じゃあ、今晩でも行きますか?」
「うん。今日は新月だし、闇に紛れるなら都合がいい。一所に長居するのも足がつくし…、貰うもの貰ったら今夜中に次の国へと向かうとするよ、黒蜜」
「懸命ですね。今夜<虹石>を手に入れることが出来れば残りは4つですけど・・・、掠め取った<虹石>を奪おうと夜の国の追っ手も多くなっていることでしょう。用心しないと」
「そうだね。…でもまさか、<虹石>を集めてるのがこんな若造二人だなんて思ってもみないと思うよ」
クスクスと笑ってロランはグラスをテーブルに置いた。
黒蜜と呼ばれた黒髪・オッドアイの青年はそれにニヤリと口角を上げる。
普通の人間よりも大きく尖った耳と、その細い腰元から垣間見える尻尾に、彼が獣人族であることが見て取れる。
「派手に動き回らないでそっと掠め取るスタイルがいいんですよ。<虹石>を横流ししようとする派手な輩も多いですからね、ひっそりコッソリがミソです。――さて、一度部屋に戻って一休みしましょう。もっと闇が深くなってから動きましょうか」
――――要は盗みの算段だ。
彼らは今晩、ここサムサラの王族が持つという暁の秘宝<虹石>を盗みに入るのだ。
ロラン達が住むこの世界には<暁の時間>と<宵の時間>が混在する。
そのバランスはこの世界の女王である<オーロラ>が持つ王冠によって保たれていた。
愛・強さ・豊かさ・安らぎ・命・清浄・鎮魂―――それらは七色に輝く<虹石>となり、女王の王冠へとはめられていた。
女王がその王冠を手にしている限り、ロラン達の世界は温かく明るい光に包まれ、穏やかに時を刻んでゆくはずだった。
寒い<夜の時間>など訪れることはなかったのだ――――。
ところがある日、女王の王冠が<夜の時間>へと奪われた。
<夜の時間>は<暁の時間>と<宵の時間>の姉妹であったが、調和を取ることを知らない冷たい闇の女神だった。彼女が父である神から与えられた時間は、一日の内のわずか4時間だけ――。
その4時間が終わると、<夜の時間>は鏡の境界線の向こうへと追いやられる身の上だった。
温かな陽を注ぐ<暁の時間>の女神と人々に安らぎを与える<宵の時間>の女神は、この世界の調和を守るため、姉妹である<夜の時間>の女神との接触を絶っていた。
暗く寒い鏡の境界線の向こう側から幾ら叫んでも、わがままで冷酷な<夜の時間>の女神の声を聞く者は誰もいなかった。
―――― そう。
あの日偶然にもその声を聞いてしまったたった一人の姫君を除いては。
<夜の時間>の女神の誘惑に負けた姫君は、まるで操られるかのようにオーロラの寝室から王冠を盗み出した。
<夜の時間>の女神はオーロラを氷の棺に封じ込め、この世の調和を乱そうと王冠から6つの<虹石>を取り外し、闇夜にいずこかへ放り投げてしまった。
そして最後の1つだけは自らの額に埋め込み、何人も奪うことが出来ないようにと鏡の境界線の向こう側へと戻って行ってしまった。
残された<暁の時間>と<宵の時間>はゆっくりと<夜の時間>へと侵蝕され、今はまだ温かく平和なこの世界も、いつかは暗く寒い<夜の時間>に覆われる。
陽の光がなければ植物は育たず、寒さのために水は凍りつき、人々の生きるための気力さえも奪ってしまうことだろう。
氷の棺に閉じ込められた女王オーロラは、凍てつく直前に罪深き姫君に呪いをかけた。
放られた<虹石>を再び王冠へとはめ、<暁の時間>と<宵の時間>を人々へ取り戻すこと。
それが出来るまで死を迎えることは出来ないこと。
<死>という名の安らぎを与えはしないとオーロラは彼女を呪った。
<虹石>の噂は罪深き姫君の物語と共に世界中を走り、それはいつしか【至高の宝】として盗賊たちに求められるようになった。ロラン達と同じように、<虹石>を捜し求めている者は多いのだ。
ゆえに贋作も多く出回った。このサムサラにたどり着くまでに、何度贋作を見つけたことだろう。
くたびれ儲けの骨折り損もいいところだ。
「今回も贋作だったらどうします?」
「王族が持ってるんだし、よほど精巧に出来てるんならともかく…贋作って言うのもないんじゃない?本物である確率は高いと僕は思うな」
荷物をベッドに放り投げてロランはブーツを脱いだ。まだ夜中までは時間がある。
「黒、僕が先にシャワー浴びてもいい?」
「いいですよ、勿論。昨日買ったココナツの石鹸使いますか?」
「あ!そうだ!そうだ!昨日買ったんだった!!勿論使うよッ!」
着ていた上着を脱ぎ捨て、上半身裸になったロランが浴室から飛び出してくると、黒蜜は「ロラン様ッ!!」と慌てて嗜めた。
「…何?」
「いえ、一応何か着て出てきてくださいよ」
「……だって、男同士だろ?」
「……いえ、そうなんですけどね。そこらへんは常識的に考えろって露草さまが」
「常識的って…。だって別に同じモノついてるし、何も恥ずかしがったりとかそういうのいらないんじゃないの?」
ガシガシと頭を掻いて、ロランはひょいと自分の下半身を覗いて見せた。
「ちゅーか、複雑です。俺…」
その仕草に黒蜜は大きくため息をつき、手にしたココナツ石鹸を亜麻色の髪の主人へと手渡した。
ロランは「今更何言ってるんだよ、変なヤツ」と怪訝そうに呟いて、黒蜜の頬へと軽くキスを落とした。
―――女王 オーロラのかけた呪いは愛くるしい姫君を一人の若者へと変えてしまった。
女性としての幸せは使命を果たさねば未来永劫訪れることはない。
そればかりか一生このまま年老いても、死ぬことも叶わないのだ。
「………」
浴室の少し曇った鏡に写る自分の体を見る。
女としての身体なんかもう忘れてしまった。
今のロランにとっては冷たく氷のような<夜の時間>が来る前に、元の世界に戻すことだけを目標に<虹石>を捜し求めることだけが生きる道だった。
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安らぎと静けさを与える月のように。
命を運ぶ風のように。
空を流れる雲のように―――。
当たり前に与えられると思っていたもの全てが消えたあの夜に、一人の姫が呪いを受けた。
呪いはこの世界を統べる女王から与えられ、彼女は罪と同時に使命を言い渡された。
お前が生きる道はその道しかあらず、お前が幸せを得るにはその使命を果たすしかない。
もし、元の自分に戻らずとも良いとその足を止めるのなら、不死の呪いがお前に降り注ぐだろう。
冷たい夜の時間が世界を覆う前に―――その手で罪を贖うのだ。
<暁の時間>を取り戻せ。
*
賑やかな酒場の一番奥の席に、奇妙な二人連れがいた。
一人は黒髪に左眼が黄金色・右目がターコイズブルーの瞳をしたオッドアイの青年、もう一人は亜麻色の髪に鮮やかな琥珀色の瞳をした青年だった。
互いにレモネードを飲みながら、古びた小さな紙切れを指差しては何やら言葉を交わしている。
「ここから東に進んだところにある古びた教会の地下から、城に伸びる地下道があります。もうしばらく使われていないみたいなんで相当古いですけど、元は王族の脱出口だったというし、今も繋がっていると思います」
黒髪の方の青年はトントンと指で教会のある場所を指し示し、目の前に座る亜麻色の青年を目で追った。
「どうします?ロラン様」
「どうするもこうするも―――、正攻法で王宮の中に入れるほど甘くないよね。そこから忍び入るしかないよ」
ロランと呼ばれた亜麻色の髪の青年は、肩をすくめてそういうとレモネードを一口飲んだ。
「じゃあ、今晩でも行きますか?」
「うん。今日は新月だし、闇に紛れるなら都合がいい。一所に長居するのも足がつくし…、貰うもの貰ったら今夜中に次の国へと向かうとするよ、黒蜜」
「懸命ですね。今夜<虹石>を手に入れることが出来れば残りは4つですけど・・・、掠め取った<虹石>を奪おうと夜の国の追っ手も多くなっていることでしょう。用心しないと」
「そうだね。…でもまさか、<虹石>を集めてるのがこんな若造二人だなんて思ってもみないと思うよ」
クスクスと笑ってロランはグラスをテーブルに置いた。
黒蜜と呼ばれた黒髪・オッドアイの青年はそれにニヤリと口角を上げる。
普通の人間よりも大きく尖った耳と、その細い腰元から垣間見える尻尾に、彼が獣人族であることが見て取れる。
「派手に動き回らないでそっと掠め取るスタイルがいいんですよ。<虹石>を横流ししようとする派手な輩も多いですからね、ひっそりコッソリがミソです。――さて、一度部屋に戻って一休みしましょう。もっと闇が深くなってから動きましょうか」
――――要は盗みの算段だ。
彼らは今晩、ここサムサラの王族が持つという暁の秘宝<虹石>を盗みに入るのだ。
ロラン達が住むこの世界には<暁の時間>と<宵の時間>が混在する。
そのバランスはこの世界の女王である<オーロラ>が持つ王冠によって保たれていた。
愛・強さ・豊かさ・安らぎ・命・清浄・鎮魂―――それらは七色に輝く<虹石>となり、女王の王冠へとはめられていた。
女王がその王冠を手にしている限り、ロラン達の世界は温かく明るい光に包まれ、穏やかに時を刻んでゆくはずだった。
寒い<夜の時間>など訪れることはなかったのだ――――。
ところがある日、女王の王冠が<夜の時間>へと奪われた。
<夜の時間>は<暁の時間>と<宵の時間>の姉妹であったが、調和を取ることを知らない冷たい闇の女神だった。彼女が父である神から与えられた時間は、一日の内のわずか4時間だけ――。
その4時間が終わると、<夜の時間>は鏡の境界線の向こうへと追いやられる身の上だった。
温かな陽を注ぐ<暁の時間>の女神と人々に安らぎを与える<宵の時間>の女神は、この世界の調和を守るため、姉妹である<夜の時間>の女神との接触を絶っていた。
暗く寒い鏡の境界線の向こう側から幾ら叫んでも、わがままで冷酷な<夜の時間>の女神の声を聞く者は誰もいなかった。
―――― そう。
あの日偶然にもその声を聞いてしまったたった一人の姫君を除いては。
<夜の時間>の女神の誘惑に負けた姫君は、まるで操られるかのようにオーロラの寝室から王冠を盗み出した。
<夜の時間>の女神はオーロラを氷の棺に封じ込め、この世の調和を乱そうと王冠から6つの<虹石>を取り外し、闇夜にいずこかへ放り投げてしまった。
そして最後の1つだけは自らの額に埋め込み、何人も奪うことが出来ないようにと鏡の境界線の向こう側へと戻って行ってしまった。
残された<暁の時間>と<宵の時間>はゆっくりと<夜の時間>へと侵蝕され、今はまだ温かく平和なこの世界も、いつかは暗く寒い<夜の時間>に覆われる。
陽の光がなければ植物は育たず、寒さのために水は凍りつき、人々の生きるための気力さえも奪ってしまうことだろう。
氷の棺に閉じ込められた女王オーロラは、凍てつく直前に罪深き姫君に呪いをかけた。
放られた<虹石>を再び王冠へとはめ、<暁の時間>と<宵の時間>を人々へ取り戻すこと。
それが出来るまで死を迎えることは出来ないこと。
<死>という名の安らぎを与えはしないとオーロラは彼女を呪った。
<虹石>の噂は罪深き姫君の物語と共に世界中を走り、それはいつしか【至高の宝】として盗賊たちに求められるようになった。ロラン達と同じように、<虹石>を捜し求めている者は多いのだ。
ゆえに贋作も多く出回った。このサムサラにたどり着くまでに、何度贋作を見つけたことだろう。
くたびれ儲けの骨折り損もいいところだ。
「今回も贋作だったらどうします?」
「王族が持ってるんだし、よほど精巧に出来てるんならともかく…贋作って言うのもないんじゃない?本物である確率は高いと僕は思うな」
荷物をベッドに放り投げてロランはブーツを脱いだ。まだ夜中までは時間がある。
「黒、僕が先にシャワー浴びてもいい?」
「いいですよ、勿論。昨日買ったココナツの石鹸使いますか?」
「あ!そうだ!そうだ!昨日買ったんだった!!勿論使うよッ!」
着ていた上着を脱ぎ捨て、上半身裸になったロランが浴室から飛び出してくると、黒蜜は「ロラン様ッ!!」と慌てて嗜めた。
「…何?」
「いえ、一応何か着て出てきてくださいよ」
「……だって、男同士だろ?」
「……いえ、そうなんですけどね。そこらへんは常識的に考えろって露草さまが」
「常識的って…。だって別に同じモノついてるし、何も恥ずかしがったりとかそういうのいらないんじゃないの?」
ガシガシと頭を掻いて、ロランはひょいと自分の下半身を覗いて見せた。
「ちゅーか、複雑です。俺…」
その仕草に黒蜜は大きくため息をつき、手にしたココナツ石鹸を亜麻色の髪の主人へと手渡した。
ロランは「今更何言ってるんだよ、変なヤツ」と怪訝そうに呟いて、黒蜜の頬へと軽くキスを落とした。
―――女王 オーロラのかけた呪いは愛くるしい姫君を一人の若者へと変えてしまった。
女性としての幸せは使命を果たさねば未来永劫訪れることはない。
そればかりか一生このまま年老いても、死ぬことも叶わないのだ。
「………」
浴室の少し曇った鏡に写る自分の体を見る。
女としての身体なんかもう忘れてしまった。
今のロランにとっては冷たく氷のような<夜の時間>が来る前に、元の世界に戻すことだけを目標に<虹石>を捜し求めることだけが生きる道だった。
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テーマ: 自作小説(ファンタジー)
ジャンル: 小説・文学





